〜筆とは一体なんでしょうか?〜

筆は中国で紀元前より政治的に
文字を統一するために製作・使用されきました

   明治30年代後半に鉛筆が庶民の間に普及し筆記用具の役目が終わり
それ以降から現在多くの筆が書道用・日本画・工芸用(人形の目を書く 蒔絵用など)
に用途を変え現在も製作・使用されています

また、仮名が基本の日本では弘法大師が中国より製造法を日本に伝え
日本人に合う筆が作られるようになりましたした。

関西で作られる「固め筆」に対し東京の筆は、江戸時代地方からの参勤交代により日本全国の職人が
江戸に集まり色々な技術・技法が集まり現在の江戸筆「さばき筆」が完成しました
我が家では明治10年代より現在まで5代に渡り技術・技法を継承して、製作される筆の種類は
約850種に及び、使用者の好みに合わせお勧めしています

〜筆は高いほうが良いのでしょうか?〜

弘法筆を選ばずという言葉が有りますが、遍照発揮性霊集の中に
「能書は必ず好筆を用いる」(良い書は必ず良い筆を用いる)
「臨池、字に遂って筆を易う」(書は字にしたがって筆を変える)
という言葉が残されています


このように一人一人の好み・技術・書き方・字の大きさ
字の形(仮名・仮名漢字交じり・楷書・行書・草書など)
により選ぶべきと考え筆作りに励んでおります

又、筆は硯の上で固形の墨を擦りこれを使う事によりより良い筆に成長します
「時間が無い」と言って液体墨を使用すると筆は成長を止めてしまいます
無駄な時間と考えず硯に向かい心を落着かせ墨を擦る時間を大切にしてください


〜筆の産地?〜
 大きく大別 →   唐筆と和筆
   唐筆
   中国で作られた筆
     筆先の3分の1だけ墨をつけて使う

   和筆
    日本国内で作れた筆、和筆にも関西で作られる「固め筆」と東京・新潟・仙台などで作られる
    「捌き筆」に大別される
    「固め筆」は、筆先の半分から3分の2を崩して使う
    「捌き筆」は、軸際まで墨をつけて使用する

    関西は、雅の文化で仮名などが筆製造の元となる、これに対し
    関東などは、漢字の文化(商業や寺子屋など)商いなど商業用として筆製造法が発達した
 
 日本の文化は、仏教の伝来と共に漢字からカタカナに、そして仮名が完成し
 日本の文章の「漢字仮名混じり」の完成を見る事ができる

   
〜筆の硬さや毛の組み合わせの種類?〜

筆の曲がった状態から元に戻り具合で名称があります

兼剛筆
  筆の中では、一番硬い筆を言う
  山馬(さんば)「ネパールのカモシカの毛」を使用した筆で書道の作品用の筆
  作品書きなどに使われ 特に強い擦れの線を表現するときに使われる
  しかし、現在はワシントン条約で輸入が禁止され本物は殆ど目にするが無い
  (毛を判断するときは、1本の毛を取り出し、毛の中ほどを折、折り目を爪でしごき毛をもう一度
  真っ直ぐにし折り目のところを再び爪でしごく、本物は毛が切れないが、偽物は折り目から毛が切れる)
  ワシントン条約で輸出入が禁止されているた
  現在多くの山馬筆と標記の筆は、馬の尻尾や鹿の毛を使用したものが山馬筆として販売されている

兼毛筆
  筆の硬さでは、硬いほうに属す
  組み合わせにより、兼剛にもなるしやわらかい筆になる
  多くが外見的には、赤毛や黒い(リスなど)の筆ですが中には白い色をしたものがある
  毛の種類としては、狸・鹿・馬毛の毛を使い筆先の戻りも良く初心者用として使われていました
  現在は、国内の狸はど取れなくなりあまり作られていません
  また、イタチやコリンスキーに馬尾脇などを混ぜ 楷書用など特筆した書道家向けの筆も作られ
  

純白羊毛筆
 中国産の山羊毛(さんようもうと読む)と白馬の尾脇の毛を使い、筆先のまとまりと戻りの良い筆で
 羊毛と馬毛の配合により硬さが変わる、馬毛が多いほど書道の初心者には向いている
 現在、馬毛は国産のものは殆ど手に入らない(以前は農耕馬として飼われていた馬は現在トラクターに
                   変わり馬が使われなくなった為カナダ・アメリカなどから輸入されている)
 現在は多くが馬毛を使わずにナイロンの毛を代用して作られている
 また、羊毛の良い毛質の中に少量の尾脇を入れることで使いやすい筆になる(草書用など)

純羊毛筆
 中国産の山羊毛(さんようもう)を使用した筆
 山羊毛は、毛の生えている部位により
   細微光峰・細光峰・粗光峰・細長峰・細直峰・老光峰・白突峰・黄突峰など15種以上に
   細分化され輸入される
   これらの毛を組み合わせることにより、墨の含みや・かすれ・起筆のかたちに変化をつける

  純羊毛筆は、長さや筆の太さ・筆先の形状で作品の表現が変わるため
  使いこなす技術が必要になる

ナイロン筆
 学童用の筆として、ここ数年使われている
 
 筆の原料としては、ナイロンの毛は使うべきでないと思う
 保墨や筆先のまとまり・線の美しさなどを加味すると、毛筆は自然界の動物の毛を最大限利用した
 すばらしい筆記用具である、職人の誇りとしてナイロンは使うべきでないと思う

                                                       2006/06  


〜墨に付いて〜

  現在多くの方が墨汁をお使いになる方が多くなりました
  固型墨の良さは、墨を磨る姿勢が筆運びに影響しています
  現代生活の中で肘・肩を動かすことが少なくなって来ています
  筆の基本運筆の中で「筆を立てる」とゆう大事なことが有ります
  初心者に多く見られ運筆の中で筆が倒れてしまう方が多くいらっしゃいます
  現代の生活で鉛筆やボールペンは角度が付いても書けますが、筆の場合は筆が寝てしまうとハネ・
  ハライが出にくくなります、これを解決する方法として墨を磨ることは大変重要な事と思います
  また、固型の墨は濃度の違いが有り、筆が素直に書けると思います
  これに対し、墨汁は成分の関係で濃度が有るために筆の戻りが悪く硬い筆の希望が多いようです
  書道で書く以上、お点前としての墨磨りは大変重要な事と思います
  また、筆の寿命の点でも固型墨の良さ(墨で書くことで筆の腰が強くなる)が出てきます
  また、墨汁の中の酸化防止剤や防腐剤の影響で毛が痛みやすく成り筆の寿命も短く成ったり、
  筆先が割れの原因にもなります
  3年ほど前から墨用のニカワの生産が国内では無くなりました
  新しい時代ですが日本の文化を残して行きたいものです
                                                       2012/12


〜文房四宝に思うこと〜

  今の文房四宝は本当に宝ですか?
  食品や衣料品の多くが海外からの輸入に頼っています
  日本には良い物が沢山あります、でも国産だけでは足らないから輸入するのですか?
  伝統は長く伝わる中で技術が発達し、多くの名品を育ててきました
  当然価格が高くなります、でも良い物は日本の気候風土・文化の中で生まれてきました 

  紙一つでさえ酸性雨の影響で100年200年保管できる紙は出来るのでしょうか?
  毛筆の素材の多くは海外からの輸入に頼っています
  江戸筆の原点の馬毛でさえ、農家で田んぼを耕す馬がトラクターに代わり
  現在はカナダやアメリカの馬です、また、原毛を下ごしらえするする職人さんも居なくなり多くは
  中国に依存しています
  また、羊毛(中国産  山羊毛(さんようもう)でさえ加工されて国内に入って来ています
  加工されればするほど筆の寿命や書き心地に影響します
  なるべく手付かずの原料で筆を作ること、でも入手が困難になってきています
  物作りの原点は素材の選別から始まります
  まず、良い原料をどう入手するかが問題です、次にどう加工するか?
  今が大きく変わる大事な時期です、良い物を作っていきたい
  それが出来る最後の時期かもしれません


  いつまでも職人のこだわりにお付き合いください
                                                       2016/7


〜原毛価格の高騰と〜

  いよいよここに来て、原毛の入手が困難に 
  3年程前より中国からの山羊毛が高騰していましたが、イタチが入手できなくなりました
  ヨーロッパでは、毛皮のコートなどが動物愛護の関係でもともと少ない所に使用を見送る
  生産者が増え、胴体の残りの尻尾を筆に加工していました
  また、中国でも食用の山羊より豚肉の消費が増えたために、副産物の山羊毛の量が減ってしまい
  今後、原毛の入荷が心配です

  2013年より中国国内でも簡体字の見直しから 小学生〜高校生まで授業で「繁体字」が
  指導されています
  中国国内の児童数はわかりませんが、かなりの人数が毛筆を使うとすれば、膨大な原料が必要に
  なります
  当然、ナイロン等の科学的繊維は使われるでよしょうが、この影響は計り知れません
  また、動物愛護の点ですが、筆の材料は常に他に使えわれた副産物の毛を使い作られています
  基本的な毛皮(コートなど)の使用が減れば価格も高騰します
  女性用のメイク筆にかなりの量が使われていますが、書道用の良い毛はまだ使われていることは少な
  いのですが
  書道人口の減少と共に、筆の職人も減る現象に危機を感じます
 
 当工房では、1994年以来価格を改定せず、現在に至っていますが、今回の原材料の高騰で
 1000種類の筆の中には作ることのできない製品が出てきています

 1970年代に一度、山羊毛などの入荷が無く、大変苦労した時が有りました
 この時は、中国製の筆を壊し、毛の部分を加工しなおして作りましたが、現在の筆には科学毛
  (ナイロン等) 使われており、これを分けることは不可能に近いと思います

 幸い、当工房では、この時の自己学習で、手持ちの原料も相当量在庫が有りますが、高騰して
 しまった原料で は筆の製作はどうなる事か?今後のことが不安です
 生かすも殺すも筆職人は原料に掛かっています

次回の報告で、良いお知らせをできればよいのですが???              2018/5